
鹿児島県は薩摩半島の南端「指宿市」にある「宮薗病院」は、「薩摩富士」と称される開聞岳の麓に位置し、周りを海や山、田畑に囲まれた風光明媚な地です。
当院は昭和39年に開院し、半世紀以上にわたって指宿市開聞地区をはじめとする南薩地区において、地域医療の充実に尽力してまいりました。
現代は少子高齢化に伴い、労働人口の減少、家族介護力の低下といった状況を生み出しています。特に指宿市開聞地区はこの傾向が著しく、高齢化率が極端に高い地区です。そのような背景から認知症患者さんの割合がどんどん高くなっている状況にあります。そこで、当院は「認知症ケア」を中心とした地域の健康づくりを自らの役割と定めました。
認知症は、ご本人はもちろん、介護をされるご家族にとっても切実な問題です。「家族が面倒を見ることが当たり前」とされた時代から、現在の少子化に合わせ「地域で見守る」ことへの転換が叫ばれるようになってきました。それが国の定めた「オレンジプラン」です。しかし、その理念そのものが根底から覆される事態となっているのです。

今地方において「地域コミュニティ」が成り立たないという話を聞きます。高齢化したために自治会の役員のなり手がいない、草刈り作業ができない、行事を中止せざるを得ないなど枚挙にいとまがありません。
これはまさに地域全体で「介護」を支えるという国の方針が立ち行かなくなることを示唆しています。私たちの地域でも周囲が認知症であることに気づかず、徘徊して家に帰ってこず探し回ったという騒動がありました。これなども地域で支える・見守る体制や仕組みがあれば防げていたかもしれません。しかし、それさえもままならない状態になっているのです。
また、家族が遠くに離れて暮らしている事例も多く、たまに帰省して初めて認知症に気づくといったケースもあります。そこで私たちはこのような地域の実情に接し、私たちにできることはないか、そもそも私たちの役割とは何か?を自問自答することにしました。

当院は県が指定する認知症サポート医の私と、認知症介護実践者研修の修了者2名が在籍し、認知症に悩む方々の対応にあたっています。私が日頃大切にしているのは、「患者さんの顔、日頃の生活ぶりに焦点を合わせる」ということです。
そのために、周りの家族からなるだけ本人の健康状態だけではなく、家族ご自身の出来事など近況を詳しく聞きます。その話題を当人に振ってみるのです。それに対する反応から病状の進行を推し量り適切な治療につなげていきます。
医療機関には地域に根差した活動が課せられています。地域コミュニティの力が低下してしまった現在において、夏祭りやお花見など地域間の交流は欠かせません。当院では以前から「認知症家族の会」を不定期ではありますが実施してきました。これからは対応法や予防法についてもっと先取りした形で活動を充実させていきたいと考えています。そのために重要なことが「医療法人慈光会」としての人間力アップです。
医療に限らず、組織はひとり一人の人間の集合体です。ひとり一人が高い理想を持ち職務に励んでいくことで社会全体に良い影響を及ぼすことができます。そこで私は、スタッフが地域にどんどん出ていくことを今後の目標に掲げました。職員も組織の一員であると同時に、地域を構成する住民でもあるからです。
当院は以前からスタッフの入れ替わりが少ない方ではないかと思っています。それは当院の幹部を中心に悩みを持つ人がいれば素早く対応することを心掛けてきたからではないかと思います。問題が起こってから対処するのではなく、問題が大きくなる前に対処することが重要です。医療機関は専門職集団であることからともすれば組織ではなく、職に奉ずる感覚が強いです。しかし、本当のいい医療はその両方を兼ね備えていることに尽きます。当院のスタッフに接していただけるとわかると思いますが、上から目線で患者さんや家族と接しない、職員間でも対等な人間関係で動いていることを実感していただけると思います。 では、私たちの組織は単なる仲良し集団か?というとそうではありません。命の現場に接しているだけにやさしさと厳しさが共存していなければなりません。私はその先頭に立ちたいと思います。ときどきやかましいことを言うだけに「くそじじい」と思われているかもしれませんね。でも、それでいいんです。その分を他の幹部がカバーしてくれていますから。
かねては厳しいリーダーと思われている私もプライベートな席では思い切って砕けているんですよ。職員との懇親会では女装して踊る、お笑い芸人のマネをするなど、私自身が日頃とのギャップを楽しんでいるのです。私の妻も一緒になって踊ります。ひょっとしたら人を驚かせる、笑わせる、楽しませるという性質を元来持っているのかもしれませんね。
趣味と言えるほどではないですが映画やテレビドラマが好きで休日はリラックスしています。ヒューマンドラマに目がなく、「エレファントマン」は特に印象に残っています。音楽はジャズやクラシックが好きですね。
ここまで、何だかカッコイイことを述べてきたようにも思いますが、真実は「言葉」ではなく「行動」に現れると言います。その証拠は当院のスタッフにあります。うちのスタッフの言葉遣いや態度を見ていただければどんな職場かわかっていただけるはずです。でも、まだまだ未熟な組織、皆さんからの叱咤激励を遠慮なくおっしゃってください。それこそが成長の源になりますから。最後に私の好きな言葉をご紹介します。
私たちは忙しすぎます。ほほえみを交わす暇さえありません
ほほえみ ふれあいを忘れた人がいます
これはとても大きな貧困です
人間にとっていちばんひどい病気は誰からも必要とされていないと感じることです
人は一切れのパンではなく愛に、小さなほほえみに飢えているのです
愛を与え、愛を受け入れることを知らない人は貧しい人の中でももっと貧しい人です
大切なのはどれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心を込めたかです